寺山修司

昭和十年十二月十日に ぼくは不完全な死体として生まれ 何十年かかゝって 完全な死体となるのである そのときが来たら ぼくは思いあたるだろう 青森市浦町字橋本の 小さな陽あたりのいゝ家の庭で 外に向って育ちすぎた桜の木が 内部から成長をはじめるときが来たことを 子供の頃、ぼくは 汽車の口真似が上手かった ぼくは 世界の涯てが 自分自身のなかにしかないことを 知っていたのだ